事例

1ヶ月でLSI設計の「背反事項抽出エージェント」を構築。実証で得られた「データ構造化」の重要性と内製化への手応え

ローム株式会社
製造
ローム株式会社
500〜5,000名未満 / エンジニア / AI・AIエージェント開発 / Copilot活用
半導体・電子部品の開発・製造・販売
公開日:  更新日:
ローム株式会社
課題・背景

LSI設計における既存製品からの変更による影響(背反事項)の確認作業が属人化しており、見落としによる数ヶ月単位の手戻りリスクが存在していた

AIで専門的な設計業務をどこまで代替できるのか、また設計者のノウハウをどうAIに与えればよいのかが不明確だった

人事や製造など一部の部門ではCopilot Studio等を用いた内製化がすでに進んでいたものの、約300件のAI案件の多くは技術的な難易度が高い(Azure等が必要)ため、着手や全社的な内製化の展開がハードルとなっていた

効果

回路図をテキスト化したネットリストを用いた実証により、AIエージェントの実務適用の可能性と限界を特定できた

単なるAIツールの導入にとどまらず、構造化データの準備や運用フローの根本的な見直しなど、実運用に向けた必須要件が明確になった

Copilot Studioの有用性を実感し、現場主導でAIエージェント開発を推進・内製化できる手応えを得た

ポイント

  • 既存製品と変更後のネットリスト(回路図をテキスト化したデータ)をセットで比較検証することによる、高精度な推論の実証
  • プラットフォーム構築が不要なCopilot Studioを活用した約1ヶ月間の迅速なMVP開発
  • 過去の研修で培われた信頼関係と、プロフェッショナルによるスムーズな業務理解
ローム株式会社では、LSI(Large Scale Integration、大規模集積回路)設計の製品開発プロセスにおいて、背反事項(既存製品に変更を加えた際に生じる、意図しない影響)の洗い出し作業の属人化と、抜け漏れによる後工程での大きな手戻りリスクが課題となっていました。同社はこの専門的で高度な業務の改善に向けて、Beyontの支援のもと、Copilot Studioを活用したAIエージェント構築の実証プロジェクトを約1ヶ月という短期間で実施。本プロジェクトを通じてどのような気づきや成果が得られたのか、そして今後のAI・DX推進に向けた展望について、プロジェクトを主導したIT統括本部の宮本様、田中様、およびLSI開発本部の南田様にお話を伺いました。

専門的なLSI設計業務のAI化へ。数ヶ月単位の手戻りリスク軽減を目指す

― 導入前の御社のAI・DXへの取り組み状況について教えてください。

宮本様:

私たちの会社では、すでに各部門で自主的にAIエージェントを活用しているケースがありました。たとえば、人事部門で非エンジニアが年末調整のチャットボットを構築したり、製造部門では、エンジニアと一緒にスクラッチで開発を行ったりするなど、取り組みが生まれていました。私たちIT統括本部では、社員が一番使いやすいツールとして「Copilot Studio」の勉強会を開催し、社内推進を行っていました。

― 今回の開発背景を教えてください。

南田様:

LSI製品の開発は、完全にイチから設計することはまれで、既存の製品に変更を加えて新製品を開発することが多いのですが、 その際に意図した箇所以外にどのような影響が出るかという「背反事項」を事前に洗い出した上で対策をしておく必要があります。従来は、設計者自身が有識者とのレビューを通じて洗い出しを行っていましたが、人による確認である以上、どうしても抜け漏れが発生してしまうことがありました。

後工程で抜け漏れが発覚すると、すでに試作品を作成していた場合などは数ヶ月単位での手戻りや開発期間の延長が発生してしまうため、長年大きな課題として抱えていました。

半年ほど前に『ネットリストをAIで処理して課題解決できるのでは?』と、回路設計者に提案したことがあります。その際は、『AIはネットリストだけでは専門的な回路情報を読み解けないだろう』という結論に至りました。ネットリストだけでは分からない、つまり設計者の持つノウハウや暗黙知をAIに与える必要があると考え、AI活用には依然として高いハードルを感じていました。

― 開発パートナーにBeyontを選んだ経緯と決め手を教えてください。

田中様:

当時、社内で業務棚卸しを行ったところ、『AIで課題を解決したい』という案件が約300件あることがわかりました。現場のアーリーアダプター層が主導するAIの内製開発の試みは進んでいたものの、多くの案件はAzureなどが必要な難易度が高いものと判断され、それらをIT部門主体でどう展開していくかにハードルを感じていました。 そこで、特に難易度の高いAI開発をプロのエンジニアに依頼することで、開発プロセスを学ばせていただきたいという期待がありました。

宮本様:

Beyontとは過去に研修でご一緒した実績があり、当社の課題を理解いただいていたことも決め手の一つです。それにより、技術的に非常に難易度の高い課題をご相談しましたが、当社の業務理解がスムーズで、私たちの意図を汲み取って迅速にAIエージェントの要件に落とし込んでいただけました。

約1ヶ月でMVP開発を完遂。AI活用の限界と「運用フロー改善」という本質的な課題を発見

― 実際にAIエージェントを開発してみて、いかがでしたか?

宮本様:

Copilot Studioはプラットフォームの準備が不要で、Azureでの開発に比べ構築期間を大幅に短縮できました。事前に「やるべきこと・やらないこと」のスコープを明確にしたことでスムーズに進行したものの、1ヶ月という短期間でトライ&エラーを回すには、定例会議だけでなくチャットでのやり取りも増やせば、さらに円滑に進められたのではないかという反省点もあります。

南田様:

既存と変更後のネットリストをセットで比較し、補足で回路画像も入力する手法により、当初の想定よりも高精度な推論ができるなと感じました。まだまだ調整が必要な部分も多いですが、生成AIがどういったことをできるのかのイメージが掴め、エージェント開発が一気に加速しました。

一方で、実運用に向けた課題も見えてきました。構築が手軽な反面、コストが見えにくく上司へ提案しづらい点や、スキャンしただけのPDF資料も多いため、AIが正しく理解できるデータ基盤の整備が必要だという点です。さらに、人によって指示の書き方や粒度が異なるうえ、そもそも回路図の画像認識は現在のAIにとって得意分野ではないことも分かりました。

しかし、こうしたAIの限界を知ったことで「既存の業務フローをそのままAIに置き換えるのが最適か」という前提そのものについての議論に発展しました。結果として、データ準備や運用フローそのものの見直しという、より本質的な改善の必要性に気づけたことは、私たちにとって非常に大きな進展でした。

― 関係者からの反応はいかがでしたか。

南田様:

これまでは「AIエージェントの構築」と聞くと非常にハードルが高いものだと感じていましたが、実際にCopilot Studioに触れてみると、普段社内で利用しているPower Automateのような感覚でローコードで構築できることに気づきました。ある程度のものなら自分たちでも作れるという手応えが得られたことで、周囲からも「自分たちの業務でも触ってみたい」という声が実際に上がってきています。このような前向きな反応を見ても、今回の件をきっかけに、今後は自ら実装していく社員が現場でもさらに増えていくのではないかと期待しています。

― 今後の展開を教えてください。

宮本様:

南田の気づきと共通しますが、今回のプロジェクトを通じて、全社からあがっているAI案件の中に、Copilot Studioを活用すれば現場主導でAIエージェントを構築できるケースが多くあるという新しい発見がありました。

今後は、事業部門が自走して解消できる課題はどんどん内製化を進め、社内全体のAI活用と業務効率化をさらに加速させていきたいと考えており、まずは社内に残る約300件のAI案件を改めてIT統括本部で開発すべき案件と、現場主導で進める案件とに整理していく予定です。

現場主導の開発を推進するにあたっては、ハンズオン形式の勉強会や開発サポートを組み合わせていきたいと考えています。その際は、ぜひBeyontにもご支援をお願いできればと思います。

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