事例
- 課題・背景
就業規則・人事制度・福利厚生などの規定が複数の文書に分散し、社員が必要な情報にたどり着けないケースが発生していた
人事担当が本来業務と並行して多くの問い合わせに対応していたほか、各部門内でも上長に確認するなど、人事から見えない問い合わせが生じていた
生成AIの活用は個人の便利ツールにとどまり、部門業務に根ざしたユースケースの作り方に知見がなかった
- 効果
評価用の質問33問中27問が、人事部門の目視確認で合格。問い合わせの一次対応ツールとして一定の精度を確認
関連規定を示しながら一貫した回答を返し、答えられない質問は人事窓口へ案内する仕組みを実装
権限管理やメンテナンスなど運用上の課題が明確になり、全社展開に向けた共通運用ルールの整理に着手
ポイント
- 個人の評価などの個人情報に関する質問には回答せず、問い合わせ先を案内するガードレールや、曖昧な質問への確認処理を実装
- 社内特有の用語について解釈の定義を追加し、人事部門による確認と改善のサイクルを検証期間中に複数回実施
- M365 Copilotライセンス非保有のユーザーも、SharePointの閲覧権限に沿ってナレッジを参照できる構成を検証
- 対象者
IT戦略本部 IT事業推進部、人事部門
- PJT期間
2026年7月〜9月(約2ヶ月)
- 内容
AIエージェント構築支援サービス(Microsoft Copilot Studio)
個人での活用から、部門業務のAIエージェントへ。第一歩に選んだのは人事規定の問い合わせ対応
― 導入前、御社のAI活用はどのような状況でしたか。
金子様:
当社では、内勤社員全員がCopilotチャットを利用できる環境を整えています。あわせて有償ツールの検討として、300名に限定してM365 Copilotのライセンスを配布しています。
ただ、活用の実態としては、今はまだ個人の便利ツールにとどまっている側面が大きいと感じていました。社員からは「何に使えばいいかわからない」という声が多かったため、議事録作成や要約といった簡単な活用例は全社に公開していました。しかし、部門の業務に入り込んだAIエージェントの事例はまだなく、組織的な活用やAIを前提とした業務の再構築には至っていませんでした。
現在は、導入・利用拡大のフェーズから、活用の習慣化や価値創出のフェーズへ移る時期だと考えています。今後は、アンバサダー制度や、エージェントを含む部門別ユースケースの創出について、並行して検討を進めていきます。
― 今回、「人事規定の検索支援」をテーマに選ばれた背景を教えてください。
金子様:
Beyontのサービスについてお話を伺った際に、AIエージェントそのものや、構築手法について学びたいと思いました。そこで、まずはAIと親和性が高そうな業務として「問い合わせ対応」を選んだという流れです。
なかでも人事関連の規定は文書の数が多く、あちこちに分散しています。必要な情報を探すのに時間がかかるため、社員は規定を確認するより先に人事へ問い合わせることも多くありました。人事部門には業務負荷がかかり、社員にとっても利便性が低い。そこが課題でした。規定の情報検索や疑問への一次回答をAIエージェントが担えば、この課題を解決できるのではないかと考え、今回のテーマにしました。
― 具体的には、どのような場面でお困りだったのでしょうか。
金子様:
社員にとって人事関連の規定集は日常的に参照するものではないので、そもそもどこにあるのかわからない人が多いんです。規定ごとにファイルが分かれていて、知りたいことがどこに書いてあるのかわからない。ひとつの事柄に関する記載が複数の文書にまたがることもあり、検索してもたどり着けないという声がありました。
そのため「人事担当に聞いたほうが早い」という発想になりがちで、なかなか自己解決につながっていませんでした。結果として、複数の担当者が同じような問い合わせを何度も受ける状況が生じていました。
― 問い合わせ対応は、どのくらいの件数があったのでしょうか。
金子様:
実績を計測したわけではないので正確な数字ではありませんが、人事担当者の体感では、月数百件にのぼる問い合わせが発生していました。人事担当者は、これらに本来業務と並行して対応していました。また、社員が上長に聞くケースも多いので、人事からは見えない問い合わせも社内で発生していたのではないかと思います。
― Beyontを選んだ決め手と、実際に進めてみての印象を教えてください。
金子様:
Copilotを業務の中でどう使うべきか手探りの状況で、我々としては何かしらの成功事例やユースケースを作りたいという気持ちがありました。ただ、ユースケースを創出するための手順やポイントについては知見がなく、不安もありました。そのため、丁寧にサポートしていただきながら総合的に学べる点に魅力を感じました。
実際に進めてみて、短期間ではありましたが、週次の定例会などでのサポートが手厚かったと感じています。Microsoft製品の仕様に関する細かい疑問にもスピーディーに回答していただけたので、とても安心感がありました。
33問中27問が合格。関連規定を示し、「推測で答えず人につなぐ」設計が安心感を生む
― 実際に構築したAIエージェントをご覧になっていかがですか。
金子様:
今回のAIエージェントは、社員がTeamsなどのチャットで人事規定に関する質問をすると、就業規則や各種規定を根拠に、引用元をあわせて示しながら回答してくれるものです。
人事担当者の所感も含めて、問い合わせの一次対応ツールとして一定の精度を確認できたと感じています。特に、回答の中で関連する規定を示してくれる点がありがたかったです。
一方で、規定集の記載内容をナレッジとしてうまく読み込めないケースや、社内特有の用語の解釈が難しいケースもありました。たとえば当社の人事規定には、ワコールの社員として取るべきアクションが定められています。ところが、AIに規定を読み込ませても、一般論としての回答になってしまうことがありました。AI自体の課題とナレッジ整備の課題の両面があると思いますが、参照してほしい箇所を参照してくれないという難しさは感じました。
― 評価用の質問では33問中27問が合格という結果でした。人が対応する場合と比べて、どのように評価されていますか。
金子様:
同じ質問でも、人が答えるとどうしても回答にばらつきが出てしまいます。AIエージェントは関連する規定を示したうえで、おおよそ同じ回答を返します。この点に、AIならではの良さが出ていたと感じています。
また、回答が難しい場合に人事窓口を案内してくれる仕組みも、利用者にとって安心できるものです。社員は「誰に問い合わせればいいのか」がわかれば迷わず相談できます。すべてをAIだけで完結させず、必要に応じて人事担当につなぐ運用まで設計できたことは、当社で実際に活用していくうえでも良いアプローチだったと感じています。
― 定量的な成果以外に、今回のプロジェクトを通じて得られた気づきはありましたか。
金子様:
まずは、AIが読み取りやすい形に社内資料を整理する重要性を強く感じました。今後はAIと一緒に仕事を進める場面も増えるはずです。人事規定に限らず、他の社内文書やデータ基盤についても、AI活用を見越した作り込みが大事だと感じています。
もうひとつは、実際にエージェントを作ってみたことで、Microsoft製品の仕様への理解が深まったことです。権限をどう付与するか、管理やメンテナンスをどうするかといった、検討すべき運用管理上の課題がある程度明確になりました。これも今回のプロジェクトで得られた大きな気づきです。
特定業務で生まれたユースケースを起点に、全社展開と他部門への横展開へ
― 納品後、AIエージェントは現在どのような状況でしょうか。
金子様:
現在は、先ほどお話した権限管理や共通の運用ルールの整理を進めています。そのうえで、まずは試験導入し、活用状況のモニタリングやフィードバック収集を行い、全社公開につなげることを検討しています。
また、今回作成した人事規定エージェントの仕組みや構成は、別の部門でも応用できる要素があると感じています。費用対効果も精査しながら、横展開の可能性も探っていきたいと考えています。
― 全社に展開された際には、新入社員や異動された方にも役立ちそうですね。
金子様:
そうですね。新入社員や異動者など、制度に不慣れな方にも活用してもらいやすいと考えています。人事担当者とも話していたのですが、人に聞く場合と比べて、時間帯や場所を選ばず、初歩的な内容でも気軽に質問できるため、心理的な負担も少ないと考えています。
― 人事部門からは、どのような声が上がっていますか。
金子様:
人事担当者も、生成AIの活用は企業として取り組むべき重要なテーマだと捉えています。今回の検証を通して、人事担当者自身も、生成AIの活用を見越した規定やファイルの整理が必要だと感じています。また、社内の知見だけでは進めにくい中で、実装までの流れや注意事項を確認しながら進められたのはとてもやりやすかった、という評価です。
― Beyontと開発プロジェクトを進めてみて、いかがでしたか。
金子様:
業務の中でAIをどう活用するかが大きな課題だったため、人事規定という特定部門の特定業務に焦点を当て、実際にユースケースができたという点で、とても良い取り組みだったと感じています。
生成AIの活用は、これまでのIT導入とは少し異なると感じています。技術の進化が速く、市場を見ても成功パターンもそこまで確立されていません。経営層が答えを持っている分野でもないからこそ、自社だけで試行錯誤するのではなく、幅広い企業の事例や知見を持つ方の存在が重要になると考えています。
― 今後の展開を教えてください。
金子様:
今後は他部門でもそれぞれの専門業務に関わるユースケースを創出していきたいと考えています。対象部門の選定は、各部門の利用状況や課題感を見ながら検討していきます。
進めていくうえでは、業務理解が非常に重要だと考えています。各部門の中でAIをうまく活用している社員をアンバサダーとしてピックアップし、業務部門とIT部門が連携しながら事例創出を進めていきたいです。
また、Microsoft製品は機能追加やアップデートのスピードが非常に速く、継続的にキャッチアップするのは簡単ではありません。英語から翻訳されたマニュアルを読んでも理解が難しいところがあります。Beyontは「Microsoft Copilot」Specializationを取得している企業でもあるので、製品知識や最新動向も共有していただけると、大変ありがたいです。
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